プロの料理人が選ぶ理由

インタビューを通じ、大潟村あきたこまち生産者協会のお米やパスタを選んだ理由、おすすめの調理法などを紹介します。

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入魂のサービスで親しまれ半世紀 レストラン「英一番館」様

2024.3.15

 

神奈川県横浜市。横浜港に面した神奈川県民ホールには、美しい港の景色を一望できる半世紀の歴史を持つ洋食レストランがあります。
ご来店されるお客様へのお食事はもちろん、お客様のもとへ出向いてお料理をサービスする「ケータリング」を得意とされており、プロ野球選手からも熱く支持されています。
サービスの奥深さを熟知し、お客様へ心を込めたおもてなしを提供するレストラン「英一番館」代表取締役社長の山田重雄様にお話を伺いました。

-お店の成り立ちについて、歴史をお教えください。

神奈川県民ホールができた昭和50年の1月に、この近くにあったシルクホテルが県からの依頼を受けてレストランを創業したことから英一番館は始まり、その後ホテルは無くなって、2代目オーナーを引き継いだのは横浜の不動産会社でした。
私は元々ホテルマンをしていましたが、のちに取締役を務めたサテライトホテルが3代目のオーナーになりました。
その後、25年ほど前の平成10年10月1日に、脱サラして英一番館の社長に就任しました。こうして4代目オーナーになりましたが、私が一番オーナーに就いている期間が長いと思います。
最近はコロナ禍があったし、大変な苦労や困ったこともたくさんあったけれど、こうして半世紀も営業を続けて来ることができました。

元ホテルマンの代表取締役・山田重雄様は営業サービスのプロフェッショナル

 

-「英一番館」という店名の由来をお教えください。

昔は山下公園もなくて、すぐそこまで海だったようで1923年に起こった関東大震災で現在の地形になりました。(=山下公園一帯は、大震災で倒壊した瓦礫を利用して造成したと言われる。)
横浜港を開港した時にイギリスの商社が1番館、2番館、3番館…10番館、と10軒並んで建っていてそこで貿易の商売をしていました。(=イギリス商社の洋館は地元住民から「英一番館」と呼ばれて親しまれていたという。)
隣の隣にシルクセンターという建物がありますが、その敷地には「英一番館・館跡」と刻まれた石碑が立っていて、それにちなんで「英一番館」という店名をつけました。

横浜港の歴史にとって重要な建物の名をつけた店名「英一番館」

 

  -お店を長く続ける上で、大事にしているところをお教えください。

 私の考えとして、従業員の生活を保障することを第一に、更にその上で、お客様に喜ばれるサービスを提供すること。

特に、サービスに関して大手チェーン店は全てがマニュアル化されているけれど、ただのマニュアルだけでは「心」が入っていないように思えて、私はホテルマン時代からそれが嫌いでした。

私がホテルの総支配人になった時に従業員の前で開口一番に「マニュアルが50%、サービスを提供する側の気持ちが50%」と私の考えを伝えました。

つまりマニュアルとは「機能的なサービス」のことで、型が決まっているもの。そこへ、私は従業員が各々の気持ちを入れる「情緒的サービス」を考えてもらい、2つのサービスをミックスしたものをお客様へ提供することが、最高のサービスだと考えています。

最高のサービスが提供されるお洒落な店内からは、横浜港を一望できる

 

 お客様が「ありがとう。食事もおいしくてサービスもよかったから、また来るね。」と従業員に挨拶してお帰りになり、従業員は「ありがとうございました。またお待ちしております。」とお客様をお見送りする。

それを見ることが、私の一番の仕事ですね。これ以上のことはないです。

全てのお客様に「機能的サービス」と「情緒的サービス」の2つをミックスして、ご提供することが、この商売の一番の意義じゃないかな。

 

 -神奈川県民コーラスの会等の地元グループ活動へのご支援や、横浜スタジアムで試合をするプロ野球選手への食事提供等、英一番館様はさまざまなお仕事をなさっていますね。

 県民コーラスは35人ぐらいのメンバーで活動されているんだけれど、今から10年程前に星名さんという方が私を56年ぶりに訪ねてきたことで始まりました。

「高齢者が元気に活動できるような場をつくるため、コーラスをやりたい」という話を聞き、大変素晴らしい事だと思ってね。うちが協力するから、ぜひ頑張って!と、会場費を頂かずに食事代のみで発表する場を提供して、コーラスの会を応援することになりました。

いくら色々なことを企画しても、それを発表する場がなければ実現できないからね。コーラスメンバーもみんな喜んでくれましたね。

 

 昭和53年に横浜スタジアムが完成したんだけれど、その当時の地元球団は大洋ホエールズ(現在の横浜DeNAベイスターズ)だったな。

各ビジターの球団(=地元以外から来るゲストの球団)は遠征すると、どこかに宿泊が必要になります。阪神、中日、広島の3球団のマネージャーが、この辺りの横浜中華街をはじめとしたどこかに、宿舎になるホテルがないか、あちこち探し回っていました。球団マネージャーが北京飯店という中華料理屋で食事をしていた時、ちょうどその店の隣の隣にあった、当時私が勤めていた「サテライトホテル」は宿舎にどうだろう?という話が出たので、私が各球団と交渉した結果、3球団と契約することができました。

そして横浜スタジアムでの食事も、うちでやりましょう。ということで始まったのが、現在も続いているケータリングサービス

これは私が英一番館を経営するよりずっと前のできごとでしたね。

 

 -「ケータリングサービス」とは、どのようなサービスなのでしょうか?

 料理と器具をお客様のところへ一式持って行き、色々な料理を一番おいしい状態で召し上がって頂くサービスのことで、プロ野球選手の場合の提供場所は、球場内にそういう飲食専用スペースがあるわけではなく、ロッカールームの中でサービスを行っています。

地元球団と、横浜スタジアムと神宮球場に来るビジター球団が、うちのお客様なんですが、ビジター球団は特に遠征先には食事するところがないから、ケータリングが必要になるというわけ。

よその球場では球場の食堂が食事提供をやっているそうだから、神宮球場と横浜スタジアムだけは条件が違っていて、特に神宮球場には食堂がないし、特殊な例ですね。

パ・リーグは日ハム以外の5球団全部でケータリングをやっていますが、全国でも9つもの球団にサービスを提供しているお店は他にはないですよ。

 

 -ケータリングではどのようなメニューが提供されていますか?また、プロ野球選手の皆さんに人気のメニューは何でしょうか?

 調理器具を持参して、その場で焼いて提供するから焼きたてを食べられるホットサンドが人気!

料理を保温しておけるボックスに、焼きあがったホットサンドを入れれば、ボックスを開けてそのまま手掴みで、サッとすぐ食べられる。だから選手たちに一番人気があるのはホットサンドですね。

調理担当を12時間程つけておく必要があるし、手間がかかるから、全国でこのホットサンドのサービスをやっているところはうち以外にありませんよ。

 ごはんを使う料理ならおにぎりが5種類と、カレー、カツ煮丼と牛丼、親子丼…と丼物が人気で、使っているごはんは、もちろんあきたこまちだよ!

他にも焼きそばにラーメン、うどんとそばもあるし、ドリンク類やフルーツ、デザートもある。すごい量だよ。

選手たちのパワーの源

 

ちなみに西武は、他の球団の倍ぐらいの量の焼きそばを食べちゃう。
もうケンカになるからね!
(一同大笑)

-弊社のお米を使って頂いているきっかけをお教えてください。

その昔、秋田県の大潟村という場所は何十年もかけて干拓をして田んぼにして、そこへいろんなところから農家が入ってきたんだってね。村の農家たちでできた会社、あきたこまち協会の発起人は、「農家が独自に商売をやって行くんだ!」と決めて、お米の販路を自分たちで開拓していった。その話を私は新聞で読んで、すごい気骨があるなぁと思っていました。
ホテル時代からずっと付き合っていた横浜市内のお米屋が、商売をやめることになってしまい困っていた時、いろいろ検討しているうちに、新聞で読んでいたその話を思い出しました。
こういう人たちだったら、おいしくないお米なんて作るわけがない。そう思って連絡を入れたのが、取引を始めたきっかけです。

丁度いいベストな炊きあがりで提供される秋田県産あきたこまち

 

ごはんの炊き方に関しては、この頃の炊飯器はとてもおいしく炊けるから、特別なこだわりはこれといってないけれど、うちは年配のお客様が多いから食感の硬いごはんは駄目ですね。でも軟らかすぎても駄目。硬くもなく、軟らかくもない、丁度いい加減でお出ししています。

 

-お店を営んでいる中で、つらかったことや嬉しかったことをお教えください。

 つらいのは、もう…しょっちゅうつらいよなぁ…(笑)コロナ禍で大変だったときも、従業員の生活を維持するという悩みがあったけれど、金銭的な悩みは常にあるから、それを苦しみとか悩みとか言っていたら、経営者じゃないんです。それは常について回る当たり前のことですからね。

嬉しいのは大規模なケータリングを成功させた時ですね。大人数のケータリングは、そうそう対応できる簡単なものではないんだけれど、それを私は平気で引き受けてきちゃう。私のホテルマン時代には、2,000人規模のケータリングをやってきた経験があるからですね。仕事が無事に終わって、お客様から喜ばれた時は安心しますね。

「みんなよくやってくれた!」って、とても嬉しいです。

 それから去年、阪神が優勝して日本一になった時、私のようなただの下請けに優勝パーティーの招待状が来たときは嬉しかったなぁ。

私は歳なのでパーティーには行かなかったんだけれど、阪神球団の皆から「なんだよ~!社長は来ないのか~!」って随分言われたって(笑)

普通、パーティーに呼ばれるのは後援者だし、私たちは球場まで行って、料理を提供して、それで終わりですからね。それだけ想ってくれているって事だから、ありがたい!

店内に並んだ選手や監督のたくさんのサイン

 

=インタビュアー実食!=

《インタビュアー》今回はおすすめのお料理として、「ビーフギネスシチュー」と「プレマッチランチ」を頂きました。サラダとスープバーもついております。

 

【お店の代表作 名物ギネスシチュー】

ギネスシチューのお肉、軟らかかったでしょ!
お店の40周年を記念して、うちが代表するメニューをひとつ作ってほしいと、当時の料理長に考えてもらい、できあがったのがギネスシチュー。
「英一番館」というのはイギリスの商社だから、イギリスのものを何か使うことと、更に洋食と言えば肉料理なので、ビーフシチューの肉が軟らかくておいしいものできないか?といったことで考案されて、完成まで半年ぐらいかかりました。
隠し味で「ギネスビール」が使われているソースが、シチューの味の決め手。この味のファンが、真空パックにしたテイクアウト用のシチューも買いに来店されますね。
もっとお肉を軟らかくして更においしくするにはどうしたらいいか検討したとき、熊本県で製造されている「黒酒」というお酒に着目しました。黒酒を使うと香りがよく、お肉が軟らかくなります。
…こういった工夫は普通、調理場から出るものだけれど、私が全部先に言っちゃうんだ(笑)

こうしてお客様から喜ばれる、うちの最高傑作をつくるべくして完成したのが、このギネスシチューなんですよ。

《インタビュアー》ギネスシチューを頂きまして、肉がほろほろ食感でとても軟らかくごはんに合うお味でした。付け合わせのニンジンのグラッセもとても甘く子供からご年配の方まで好きなお味でした。

英一番館様自慢の最高傑作!とろけるお肉のギネスシチュー

 

【ランチメニュー プレマッチランチ】

 うちはケータリングをたくさんやっているので、その料理をアレンジしたメニューとして考えて10年ぐらい前にできたのがプレマッチ(=プロ野球のオープン戦のこと)ランチ。

スパゲッティと、人気のホットサンド、チキンの唐揚げと、エビフライ、野菜サラダ。それにヨーグルトのデザート。ヨーグルトは選手にすごく喜ばれています。

少し甘酸っぱい味のフルーツヨーグルトで、「社長、この味はどうやって作っているの?」と訊かれることがあるんだけど、隠し味にハチミツを少し入れています。ギネスシチューもそうだけど料理には、やっぱり隠し味ですよね。

《インタビュアー》スパゲッティはアラビアータで、トマトソースの味が麺にしっかり絡み合っておりました。小エビのフライもエビがプリプリ食感でした。

ホットサンドは中身がチーズとハムで、とても懐かしいお味でおいしく頂きました。

最後のデザートはフルーツヨーグルトで隠し味の蜂蜜が絶妙の甘さを引き立て、最後にふさわしい〆の味になっておりました。

プロ野球選手たちと同じ味を楽しめる、ケータリングから生まれたプレマッチランチ

 

【隠れた名物 カレースープ】

 選手はカレースープも大好き。でも、毎日同じ料理を持って行くわけにはいかないから、メニューを変えるんだけど「なんでカレースープがないんだ~‼」と怒られる(笑)

カレースープはどこの球団の選手にも評判で、持っていけば誰も文句を言わないなぁ(笑)

戦前のホテルのメニューでは、このカレースープが主流だったけれど、手間がかかるから提供する店が減ってしまったそうです。前料理長が調べてきたレシピで提供するようになったこのカレースープは、隠し味よりも、とにかく基本にのっとったスタイルで作っています。

プロ野球の仕事のおかげで、このようなメニューも復活させることができましたね。

《インタビュアー》辛さがありつつマイルドでごはんがすすむお味でした。カレースープがないと選手に怒られる…なんだかその気持ちが分かるぐらいごはんに合い、おいしかったです。

ケータリングにこれが無かったら一大事…やみつきカレースープ

 

 

《インタビュアー》山下公園が一望でき、ベイブリッジも見ながらおいしい食事が楽しめるレストランでした。

なんといってもギネスシチューとカレースープはごはんに合い、とてもおいしく頂きました。おいしい料理と食べながら見える最高の景色は、レストランを出る時、必ず笑顔になるぐらい素敵な空間でした。今度は、シーフードドリアを食べてみたいです。

とてもおいしかったです。ご馳走様でした。

取材:渋間・猪爪

英一番館

神奈川県横浜市中区山下町3-1神奈川県民ホール6F

TEL:045-662-5446

営業時間:ランチ11:30~14:00/カフェ14:00~17:00/ディナー17:00~21:00(L.O20:00)

定休日:年末年始のみ休業

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